“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 二百四十八通目『“稽古場で泣いてはいけない”と言われる理由』
◆“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 二百四十八通目『“稽古場で泣いてはいけない”と言われる理由』
君は「稽古場で泣いてはいけない」と先生や社長やプロデューサーから指導を受けたことがありますか。そして、その指導の真意を理解できていますか。
そもそも、「稽古場で泣いてはいけない」という指導は「稽古の一部分」です。
プロのステージでは、失敗しても、悔しくても、動揺しても、パフォーマンスを続けなければなりません。稽古場は、そのような状況への対応力を養う場所でもあります。稽古場で簡単に涙を流しているようでは、本番でお客さんを前にして泣いてしまう可能性があります。お金をもらってパフォーマンスする立場の人間がそんなことでは困るというものです。
ここで重要なのは、感情を感じるなということではなく、感情が動いても、必要な行動を選べるようになれということなのです。
ちなみにひとつ言っておきます。泣いている理由が、単なる悔しさなどではなく、「体調不良」「恐怖」「ハラスメント」「過度の負担」などである可能性もありえます。
したがって、規律として定義したいのは、「涙は禁止」ではなく、「涙によって課題や責任を曖昧にしてはいけません」ということです。
そのうえで改めて。
稽古場では「泣いてはいけません」。また、「泣いている人を慰めてはいけません」。これは、決して感情そのものを否定したり、涙を流す人を責めたりするためのものではありません。なので「叱っている」わけではないことを理解してください。
悔しさから涙があふれること自体は自然な反応ですが、どれだけ泣いても技術的な課題そのものは解決しません。「うまくできない」「優しくなぐさめられた」といったことで泣いても何の足しにもなりません。
「泣いてはいけません」という指導の真意は、涙を禁止することではなく、感情に支配されて目の前の課題や練習を放棄してしまわない姿勢を身につけることにあります。
泣きながら練習する姿は一見すると懸命に見えるかもしれませんが、涙の量は努力や成長の客観的な指標ではありません。
そもそも感情の動揺に時間を取られて先生の指導が耳に入らなくなれば、大切な学習機会を失います。また、グループ全体の貴重な稽古時間を無駄遣いしてしまうことにも繋がります。
プロの表現者として舞台に立つ以上、感情が大きく揺れ動く場面でもパフォーマンスを続けられる心の強さが求められます。
だからこそ、気持ちが落ち着いたあとに「何ができていないのか」を冷静に分析して練習を重ねることが不可欠なのです。「泣いたところで」上手にはなりませんから。
また、「泣いている仲間を安易に慰めてはいけない」という理由も、冷淡さからではなく相手の成長を守るためです。
「十分頑張ってるよ」といったその場しのぎの慰めは、指導者の的確な指摘をぼやけさせます。先生からのダメ出しでその人が泣いているのに、君は一体どういう立場で「大丈夫、大丈夫」とか「よくなってるよ」とかを言えるのでしょうか。それは先生を否定する態度だと気が付いていますか?
なにより、責任の無いその慰めが、本人が課題と真正面から向き合う機会を奪ってしまいかねないということを知ってほしいです。
泣くたびに周囲が過剰に駆け寄ってしまえば、本人が「自力で困難を乗り越えて立ち直る力を育めなくなる」だけでなく、「慰める側自身の稽古時間までも失われて」しまいます。そこにはロスはあってもプラスになることはないのです。
感情を「無理に押し殺すこと」が正解ではありませんし、そういうことを指導したいわけではありません。
「泣くな」というのは、「心を抑圧させよう」ということが目的ではなく、「泣いたことを成長と勘違いさせない」ためです。
「慰めるな」というのは、泣いている人を「孤立させたいわけではなく」、安易な慰めで「相手の成長を止めない」ためです。
それでも、君が、優しさをみせたいというのであれば、その場しのぎの言葉で取り繕うのではなく、相手の気持ちが落ち着いたときに「さあ、さっき出来なかったところを一緒に練習しよう」と、手を差し出すのが一番だと思います。
以上
「“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 二百四十七通目」は2026年10月14日の記事
「“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 二百四十九通目」は2026年10月28日の記事
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