“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 四十一通目『演技は“段取り”と“反応”』
◆“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 四十一通目『演技は“段取り”と“反応”』
君が「演技」をする人、つまり「俳優」だとしましょう。
どうやって「演技」をしていますか?
まずは台本を何度も読み、セリフを覚えますよね。そして、稽古場で同じ場面を繰り返し繰り返し練習して、演技を身につけていきますよね。
それでいいと思います。というかそれしかありません。
しかし、セリフを覚えて、間違いなく演技ができるようになったとしても、実は「本当の演技」にはなっていないかもしれません。
なので、その確認をしましょう。
「演技」は、「段取り」と「反応」で、出来ています。
「段取り」とは、「ここではこう動く」、「ここではこういう表情をする」、「ここでは声の大きさはこれくらいで」などと「ここでは〇〇する」というのが、「段取り」です。
これを「演技」だと思っていませんか?
違います。
俳優の仕事は「舞台の上の人物が、その瞬間、確かにそこで生きているように体現する」ことです。
たとえ、君がその人物を何度演じていても、毎回毎回、その人物はその幕のその場面のその瞬間を「初めて生きて」いなくてはいけません。その登場人物にとって、その一瞬は「一度きりしかない人生の一瞬」でなくてはならないのです。
「段取り」は重要です。「台本」で定められた、その人物の人生を、何度も何度も舞台の上で再現しなければならないのですから。台本は、その「設計図」です。
複数の俳優が、それぞれ「設計図」どおりに動いて、それが複雑に絡み合って、「芝居」が構築されるのです。
「設計図」通りに動く手がかり、それが「段取り」です。
そして「段取り」の他に重要なものがあります。
「反応」です。
「反応」は厳密に言えば「台本には書いてありません」。
台本の中で一瞬一瞬を生きている登場人物たちは、常に、意識して動いたり、あるいは無意識に動いたり、感情が変化したりしています。
それらは「段取り」では表現できないものです。そして、「役者にしか出来ない仕事」なのです。
例えば、心動かされるシーンで役者の目から自然に涙が流れる時。それが物語の中で不自然でなければ観客の目にも涙があふれることがあるでしょう。観客の心を揺さぶることが出来るほど自然な演技ができたということです。
これは舞台上の役者が「物語の中で本当に生きている人物」を見事に演じることができた時に起こる「心の反応」の結果です。「段取り」で泣いたわけではないはずです。
役者同士がセリフを交わしたり、何かの行為をするごとに「段取らずに起こる変化」。これが「反応」です。
このように「演技」は、『決められた “段取り”』と『生きている人間を演じた時の “反応”』で構成されているのだということを知っておいてください。
以上
「“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 四十通目」は2022年10月19日の記事
「“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 四十二通目」は2022年11月2日の記事
0コメント