本当はカッコ悪いと思っている「曲ふり」

 初めてアイドルイベントを見たときに、いくつかのカルチャーショックを受けたことを鮮明に覚えています。男装パフォーマンスユニット「スペーズ」を企画し、立ち上げるよりも以前のことです。


 複数のアイドルが参加する「対バン」形式のイベントの場合です。Aというグループを推す観客とBというグループを推す観客が、A、Bの出番の交代でステージ前のスペースを譲り合って入れ替わっていました。

 アイドルイベントでは、当たり前の光景ですが、初めて見たときは衝撃的でした。アイドルイベント以外のライブで、そんなに露骨に観客が入れ替わるシーンを見たことがなかったからです。そのまま、その場にいればいいのにと思ったのですが、BのグループのファンのためにAのグループが場所を譲っていると知り、不思議な「作法」だなと感じました。


 「えー、これが当たり前なのかなぁ」という「アイドルイベント現場の常識」は、他にいくつもありますが、いまだに「なんだかなぁ」と思っていることがあります。


 『曲ふり』です。ステージ上のアイドルが、MCのあとに「それでは聞いてください。〇〇〇〇です」と次に歌唱する曲を紹介するアレです。


 アイドル以外のアーティストでもコンサート中に「それじゃ次の曲、〇〇」と振ることは珍しいことではありません。

 が、ローカルアイドルイベントのステージの場合、この「曲ふり」は明らかに音響PAスタッフへの「合図」です。「音響さん、次の曲を再生してください」という指示なのです。

 音楽イベントでこういう方法は、あまりスマートではありません。なぜなら、普通は本番前に段取りの確認、きっかけ言葉の示し合わせ、そしてリハーサルが、きちんと行われています。「それでは聞いてください」などと言わずとも、良いタイミングで次の曲のイントロが流れるものです。


 しかし、アイドルイベントの実情を知って、「なるほど」と理解しました。

 だいたいのアイドルイベントではリハーサルや、サウンドチェック、マイクチェックは行いません。イベント開演前のリハーサルが出来るような時間に、すべてのアイドルグループが会場に集まっていることは稀有だからです。

 多くのアイドルは自分たちの出番に合わせて会場入りします。直前まで別の会場のイベントに出演していたり、出演者全員が入れる控室がなかったりするからです。会場入りした時点ではすでに数組前のアイドルがステージ上でパフォーマンスの最中です。リハーサルなどできるわけがありません。

 会場に到着したアイドルは、PAブースにカラオケ音源とセットリストを渡します。音響の担当者は簡単なセットリストをてがかりに「音出し」をしなければなりません。打ち合わせもほとんどなしなので、ステージ上の出演者の「Cueサイン」が必要になります。

 それが、「それでは聞いてください」なのです。


 きっとライブ会場で生まれたひとつの『工夫』なのだと思います。


 次の曲のタイトルを覚えてもらうためという理由もあるのかもしれません。しかし、演奏のたびに必ず「それでは聞いてください」と言うのは、やはりスマートでないことは間違いありません。


 スペーズはホームのライブハウスの公演でも「次の曲、聞いてください」と習慣的に言ってしまいます。本当はカッコ悪いと思っています。できれば、そんな野暮ったいセリフ以外でセットリストを進めたいです。せめて、ワンマン自主公演ではスマートに演奏できるようになりたいと思っています。

                                                 以上

 

 


 

 




男装パフォーマンスユニットSPADES

名古屋・栄を拠点に活動する「男装」のパフォーマンスユニット。 歌・ダンス、芝居、お笑いと幅の広いジャンルで活動しています。 キャッチコピーは「あなたの夢を叶えます」。