“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 二百三十四通目『心のセリフ』


◆“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 二百三十四通目『心のセリフ』


 君は、演技をするとき、演出家から「今、なぜ、そのセリフを言ったのですか?」と言われたことはないでしょうか。

 まさか「台本に書いてあるからです」などとは答えないと思います。


 セリフには二種類あります。

 ひとつは、台本に書かれているセリフです。もうひとつは、台本には書かれていないセリフです。

 それが「心のセリフ(インナーボイス)」です。


 「心のセリフ」は、台本の中では「二つの場所」にあります。

 ひとつは「行間」です。文字と文字の間には、登場人物の感情や思考が流れています。

 そしてもうひとつは、「相手がセリフを言っている時間」です。人は、自分が話していないとき、何も考えていないわけではありません。相手の言葉に共感したり、納得したり、驚いたり、疑問を持ったり、反論したり、期待したり、不安になったりしています。

 (ちなみに「自分がセリフを言っている時」にも「心のセリフ」があるのは当然のこととします)

 そうした心の動きが積み重なり、次に発する一言になります。


 つまり、口から出たセリフには、その前に必ず「心のセリフ」が存在しているのです。

 しかし、その心のセリフは台本には書かれていません。

 だからこそ、それを自分自身で見つけ、表現することが「俳優の仕事」なのです。


 そのために必要なのは、自分の中にある引き出しです。

 これまで見てきたもの。聞いてきたもの。経験してきたこと。うれしかったこと。悲しかったこと。悔しかったこと。腹が立ったこと。失敗したこと。本や映画やテレビや動画から得た知識。人との出会いから得られた価値観。そして、誰かを好きになったこと。

 そうしたすべてが、心のセリフをつくる材料になります。


 引き出しが多い人ほど、「この人物なら今こう感じるかもしれないな」という選択肢が増えていきます。

 反対に、引き出しが少なければ、どの役を演じても似たような反応になってしまいます。

 だから演技の勉強とは、演技だけを勉強することではありません。

 映画を見ることも、本を読むことも、旅行へ行くことも、人と話すことも、失敗することも、恋をすることも全部が演技の勉強になります。

 人生そのものが、俳優の教材なのです。


 「自分のセリフ」の前に、自分の中でどんな心のセリフが流れていたのか。

 そこまで考えられたとき、言葉はただ読むものではなく、生きたセリフになります。

 それを表に出すのが「演技」です。


 「心のセリフ」は、君の表情や身振り、手振りを生みます。君の「心」が動かなければ、どれほど上手にセリフを話しても、観客の心までは届きません。

 反対に、本当に心が動いていれば、たとえ何も話していない時間であっても、その人物は生きています。沈黙もまた、立派なセリフになるのです。


 台本に書かれている言葉を覚えるだけなら、誰にでもできます。

 しかし、台本に書かれていない「心のセリフ」を発することができる人は、多くありません。

 「心のセリフ」こそ、俳優としての力量が問われるのです。


 そして、「心のセリフ」を表現できるようになれば、その力は演技だけでは終わりません。

 ステージ上でのMCトークで、あらかじめ用意されたやり取りをするときも、テレビのバラエティ番組でフリートークをするときも、自分の表情やリアクションが生き生きとしたものになります。

 人は話しているときだけでなく、他人の話を聞いているときにも、その人らしさが表れます。その時間を豊かにしてくれるのが、「心のセリフ」です。


 アイドルでも、俳優でも、声優でも、人前で表現する人は皆、言葉を届ける仕事です。

 そして、人の心を動かすのは、口に出した言葉だけではありません。

 その言葉の前にある「心のセリフ」がとても大切なのです。


 是非、「心のセリフ」を言えるようになってください。

 それは演技のためだけではありません。

 君自身が、「人の心を動かす表現者」になるために必要な力なのです。

                                               以上


「“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 二百三十三通目」は2026年7月8日の記事

「“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 二百三十五通目」は2026年7月22日の記事

男装パフォーマンスユニットSPADES

名古屋・栄を拠点に活動する「男装」のパフォーマンスユニット。 歌・ダンス、芝居、お笑いと幅の広いジャンルで活動しています。 キャッチコピーは「あなたの夢を叶えます」。