“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 四十二通目『落ち葉の匂い』
◆“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 四十二通目『落ち葉の匂い』
先日、あるタレント事務所のレッスンを見学させていただきました。演技のレッスンです。レッスン生は10代が中心のクラスで男女合わせて10名弱です。
講師の指導のもとで即興芝居に挑んでいました。テーマは「別れ」。「別れたい人」と「別れたくない人」の二人芝居です。
演者はクラスから任意で相手役を選び、短い打ち合わせの後、芝居に入ります。「別れ」の設定に男性のレッスン生が選んだのは「兄弟の別れ」、「上司と部下の別れ」などでした。
「男女の別れ」はないのだな、と思っていたところに女性レッスン生が、「男女の別れ」で即興芝居を始めました。が、リアリティのない「別れのシーン」でした。
なるほど。10代では無理もないのかもしれません。経験が足りないのでしょう。想像力だけで「恋人との別れ」を演じるには限界があるという様子でした。
厚み、深み、真実味がある演技をするためには「リアルの経験の蓄積」が有効ということです。
一方、少し前にデザイン系の専門学校の先生と話をしていた時のことです。
「生徒に落ち葉をモチーフにしたデザインの課題を出した時のことです」と、先生が語りました。
「提出された課題を見て、生徒に尋ねました。『この落ち葉はどこの?』と。すると生徒は『ネットで画像検索しました』と答えたのです」
街中に散って落ちた葉っぱはいくらでもあるのだから、それを拾えよ、と先生は言いたかったそうです。同時に「検索で知った気になっている生徒たち」に不安を感じたということです。
検索すれば、たいていのことは判るという世の中です。なのでライブパフォーマーは、「検索してもわからないこと」をひとつでも多く経験するべきなのです。
「リアルの体験」が希薄な観客の心には、「リアルの体験」に裏打ちされた演技が必ず刺さるはずです。
君は、自ら進んで「検索」より「体験」する機会を増やしてください。落ち葉を拾って観察してください。その形は? 色は? 硬さは? 厚みは?重さは?
そして、どんな匂いがしますか?
以上
「“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 四十一通目」は2022年10月26日の記事
「“アイドル”や“何者か”を目指す君への手紙 四十三通目」は2022年11月9日の記事
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